M&A組織のつくり方|コーポレートデベロップメントに必要な5つの機能と12ヶ月の工程
WellBear M&Aアドバイザリーチーム
クロスボーダーM&A専門のFA(フィナンシャル・アドバイザー)チーム

- コーポレートデベロップメント(Corporate Development)とは、企業の内部でM&Aを中心とした非連続な成長手段を専門に担う組織機能である。戦略立案から候補企業の探索、評価、交渉、買収後の統合までを一貫して担当する。
- この機能を専任部署として常設していない日本の買い手企業は少なくない。M&A業務に携わる担当者が最も大きな課題として挙げたのは「M&A経験や知見、専門人材の不足」で、52.7%を占めた(DIGGLE株式会社調べ、2026年1月)。
- 本記事では、この機能が担う5つの役割、機能が欠けた場合に生じる問題、立ち上げの12ヶ月工程、そして採用・外部委託・コンサルティングの比較を、買い手企業の実務目線で整理する。
コーポレートデベロップメントとは何か
コーポレートデベロップメント(Corporate Development、略称Corp Dev)とは、企業の内部に置かれ、M&A・資本提携・出資・事業売却といった非連続な成長手段を専門に担う組織機能である。全社戦略から投資テーゼを導き、買収候補を継続的に探索し、評価・交渉・実行を行い、買収後の統合と振り返りまでを管理する。単発の案件を処理する係ではなく、M&Aを繰り返し実行できる能力を組織に持たせるための常設機能を指す。
日本語では「M&A推進部」「経営企画部M&A室」「事業開発部」など、企業によって呼称が分かれます。呼び方が定まっていないこと自体が、この機能が日本でまだ標準化されていない状況を反映しています。
経営企画・事業開発・仲介/FAとの違い
似た役割と混同されやすいため、担当範囲と立場で整理します。
主な役割 | 立場 | M&Aへの関与 | 終了後に残るもの | |
|---|---|---|---|---|
コーポレートデベロップメント | M&Aを含む非連続成長の設計と実行 | 買い手社内の当事者 | 戦略からPMIまで一貫 | 実行能力そのもの |
経営企画 | 全社戦略・予算・中期計画 | 買い手社内 | 兼務で部分的に関与 | 計画と管理 |
事業開発(BizDev) | 提携・新規事業・パートナリング | 買い手社内 | 出資・提携が中心。買収実務は範囲外が多い | 提携関係 |
M&A仲介・FA | 1件のディールを成立させる | 外部の仲介者・助言者 | ソーシングからクロージングが中心 | 成約した1件の取引 |
戦略コンサルティング | 戦略・PMI計画の設計 | 外部の分析者 | 上流と統合計画が中心 | 報告書・計画 |
違いは責任の範囲にあります。仲介・FA・コンサルティング会社は案件やプロジェクトの終了とともに離れますが、コーポレートデベロップメントは買収した事業が成果を出すまで社内に残ります。外部の助言だけでこの機能を代替することはできません。
なぜ今、日本企業で問題になっているのか
案件数は過去最多を更新し続けている
2025年1月から12月の日本企業のM&A件数は5,115件で、2024年の4,700件から415件、8.8%増加し、2年連続で過去最多を更新しました。金額も35.7兆円と前年比74.7%増で、件数・金額ともに過去最高です(レコフデータ「MARR Online」2026年1月5日公開)。
内訳はIN-IN(国内同士)4,086件、IN-OUT(日本企業による海外企業の買収)657件、OUT-IN(海外企業による日本企業の買収)372件となっています。
実行側は追いついていない
一方で、M&A業務に携わる担当者の88.7%が検討・実行に何らかの課題を感じていると回答しています。最も大きな課題として挙げられたのは「M&A経験や知見、専門人材の不足」で52.7%でした(DIGGLE株式会社調べ、2026年1月6日発表)。
同調査では、5年前と比べてM&Aの重要性が高まったと答えた割合が77.4%、東証プライム・スタンダード・グロース上場企業および上場準備企業に限れば89.7%に上ります。
本調査の回答者数は、M&A業務従事者62名(課題の内訳設問は55名)です。サンプル数は限定的であり、傾向を示すものとして読む必要があります。
重要性の認識と案件数が上がる一方で、それを回す人員と体制が追いついていない状況がうかがえます。
国も専門部門の設置を推奨している
経済産業省は2026年5月に「スタートアップM&Aガイダンス」を公表し、買い手企業へのガイダンスとしてCorporate Development部署の設置を挙げています。エグゼクティブ・サマリーには「部・経営陣・取締役会の意向を束ね、実行を司る部門として設置」と記されています(経済産業省「スタートアップM&Aガイダンス」2026年5月、p.3)。
経済産業省による同ガイダンスの要約では、この専門部門に「新規ドメイン・戦略策定、ソーシング、PMI、バリュエーション、IR・リスクマネジメント等の機能を一気通貫で実装することが有効」とされています(内閣官房 第4回スタートアップ政策推進分科会 資料2、2026年5月20日、p.2)。
ガイダンスの詳細は「経産省スタートアップM&Aガイダンスの読み方|買い手に求められたM&A組織とは」で解説しています。
コーポレートデベロップメントが担う5つの機能
この機能は大きく5つに分解できます。5つはそれぞれ別のスキルセットを要求するため、ひとりの担当者が全部を高い水準でこなすことは現実にはほとんどありません。
1. 戦略・投資テーゼの策定
全社戦略のどのテーマを、なぜM&Aで取りにいくのかを明文化します。投資基準(規模・地域・収益性・シナジーの型)と撤退基準を先に決めます。
- 必要なスキル:事業戦略の理解、市場分析、財務モデリング
- よくある詰まり:テーゼが「良い会社があれば買う」の水準で止まり、案件の優先順位が毎回変わる
2. ソーシング(候補企業の探索)
投資テーゼに沿ってロングリストを作り、接触し、関係を維持します。仲介から持ち込まれる案件を待つのではなく、自ら探しにいく工程です。
- 必要なスキル:リサーチ、リスト設計、アウトリーチ、関係構築の継続力
- よくある詰まり:持ち込み案件への対応で手一杯になり、能動的な探索が始まらない
3. 評価・デューデリジェンス
候補企業を共通の物差しで評価し、DDの範囲・体制・チェックリストを設計して実行を管理します。会計士や弁護士など外部専門家の使い方も含みます。
- 必要なスキル:バリュエーション、会計・税務・法務の勘所、DDのプロジェクト管理
- よくある詰まり:評価基準が案件ごとに変わり社内で比較できない。DDが外部への丸投げになり論点が絞れない
4. 交渉・実行
条件交渉、LOI・基本合意、最終契約、クロージングまでの実務とスケジュール管理を行います。社内の稟議・取締役会プロセスの設計も含みます。
- 必要なスキル:交渉、契約実務、社内合意形成、プロジェクトマネジメント
- よくある詰まり:稟議のスピードが相手方の期待に合わず、案件を落とす
5. PMI(買収後の統合)と振り返り
統合の責任者、100日プラン、KPIを買収前から設計します。キーパーソンの維持、ガバナンス設計、案件終了後の振り返りを制度として回します。
- 必要なスキル:組織・人事、業務プロセス設計、現場を動かす実行力
- よくある詰まり:買収後は事業部に任せる運用となり、PMIの責任者が空席になる
機能が欠けた場合に生じる3つの問題
兼務による停滞
経営企画や財務の担当者がM&Aを兼務している場合、既存業務が優先されます。案件の検討は時間が空いたときに進むものとなり、相手方や仲介会社のスピードに追随できません。工程別に見ると、ソーシングとPMIが先に落ちる傾向があります。いずれも締切がなく、後回しにしても短期的には支障が出ないためです。
属人化による知見の消失
単発の案件対応に追われると、そこで得た知見が標準化されません。投資基準もDDのチェックリストも交渉の判断も、担当者の頭の中だけに存在する状態になります。担当者が異動・退職すれば、次の案件はゼロから始まります。M&Aの経験が会社の資産ではなく個人の経歴として蓄積されてしまう状態です。
統合段階での価値の毀損
買収が成立しても、統合の設計が後回しになるとシナジーは実現しません。日本企業の海外M&Aにおける統合段階の難しさは、公的資料でも指摘されています(経済産業省「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」2018年)。統合の責任者が決まっていない、100日プランがない、キーパーソンの維持策がないという状態は、いずれも買収前に手当てすべき事項です。ここが空席のまま進んだ案件は、数年後にのれん減損として表面化します。
立ち上げの12ヶ月工程
ゼロから体制を立ち上げる場合の進め方を3段階で示します。
Phase 1(0〜3ヶ月)設計する
やること | 成果物 |
|---|---|
現状診断(過去案件の棚卸し、詰まった箇所の特定) | 課題マップ |
M&A戦略・投資テーゼの明文化 | 投資基準・撤退基準 |
必要機能の定義と社内・外部の役割分担 | 機能マップ |
採用要件の定義(工程別のスキル要件) | ジョブディスクリプション |
意思決定プロセスの設計(誰が、いつ、何を決めるか) | 稟議・決裁フロー |
この段階で優先すべきは撤退基準を先に決めることです。走り出してから決めると、ここまで来たので進めたいという判断が入りやすくなります。
Phase 2(3〜6ヶ月)動かす
やること | 成果物 |
|---|---|
ロングリスト作成とアウトリーチ開始 | パイプライン |
週次パイプラインレビューの定例化 | レビュー体制 |
評価スコアカードの運用開始 | 案件評価シート |
DD標準チェックリストの整備 | DD手順書 |
並行してM&A人材の採用を進める | 採用進捗 |
この段階の目的は、案件を1件でも実際に動かすことです。型は実案件を通してしか固まりません。
Phase 3(6〜12ヶ月)残す
やること | 成果物 |
|---|---|
プレイブック(業務マニュアル)の整備 | M&Aプレイブック |
PMIの型(100日プラン、KPI、ガバナンス)の標準化 | PMIテンプレート |
案件後の振り返りを制度化 | 振り返りフォーマット |
外部リソースから社内への知見移管 | OJT完了 |
到達点は1件クローズすることではなく、次の案件を自社だけで回せる状態になることです。
採用・外部委託・コンサルティングの比較
体制を作る方法は大きく3つあります。どれが適切かは想定案件数と社内の現状によって変わります。参考として、特定の1件を成立させたい場合の仲介・FAも併記します。
立ち上げまでの期間 | コストの性質 | 終了後に残るもの | 向くケース | |
|---|---|---|---|---|
採用する(専任を雇う) | 採用活動に目安6〜12ヶ月と立ち上げ期間 | 経験者の年収水準は高い。採用が不調に終わった場合の再実施コストも見込む | 人材そのもの(退職すれば失われる) | 継続的に年2件以上買う見通しがあり、待つ時間がある |
外部に委託する(機能単位) | 即日〜1ヶ月 | 月額のリテイナーまたは準委任が中心 | 委託範囲の設計次第。知見移管を契約に含めれば型が残る | 今すぐ案件を動かしたい。採用要件がまだ定義できない |
コンサルティングを使う | 1〜2ヶ月 | プロジェクト単位のフィー | 報告書・計画(実行は自社で行う) | 戦略や統合計画の設計を外部の視点で固めたい |
(参考)仲介・FAに依頼する | 案件ベース | 成約時の成功報酬が基本 | 成約した1件の取引 | 特定の1件を成立させたい |
3つは排他ではありません。外部に委託しながら採用を進め、その間にコンサルティングで戦略を固めるという併用が実務では一般的です。いずれを選ぶ場合も、最終的に社内へ知見が残る設計にしておかないと、案件が増えるほど外部コストが積み上がります。
M&A経験者を1人採用すれば解決するかという問いについては、前述のとおり5つの機能が別々のスキルを要求する点を踏まえる必要があります。1人目の採用は有効な一手ですが、その1人にソーシングもDDもPMIも期待すると機能しにくくなります。
よくある質問
Q1. コーポレートデベロップメントと経営企画は何が違いますか。
A. 経営企画は全社戦略・予算・中期計画といった計画を担う機能、コーポレートデベロップメントはM&Aの実行を担う機能です。日本企業では経営企画がM&Aを兼務するケースが多く、出発点としては自然ですが、案件が継続的に発生する段階では兼務では工程が回らなくなります。
Q2. 年に1件しか買わない会社でも専門組織は必要ですか。
A. 専任チームの常設は必須ではありませんが、機能は必要です。年1件でも、投資基準・DDの型・PMIの手順が毎回ゼロからでは同じ失敗を繰り返します。人を置くかどうかと、型を持つかどうかは別の問題です。
Q3. 何人くらいの体制が必要ですか。
A. 案件数と対象範囲によりますが、年2件程度の買収を継続する場合、専任1〜2名に工程別の外部リソースまたは社内兼務者を組み合わせる形が現実的です。人数よりも、5つの機能それぞれに責任者が決まっていることが重要です。
Q4. どのフェーズから手をつけるべきですか。
A. 多くの企業で最初のボトルネックは投資基準と撤退基準の不在です。これがないと案件のたびに議論が振り出しに戻り、意思決定が遅れます。次に効くのは能動的なソーシング経路の構築です。
Q5. 外部に委託すると、ノウハウが社内に残らないのではないですか。
A. 契約の設計によります。成果物の納品だけを定義した契約では残りません。プレイブックの整備、OJTによる知見移管、社内担当者の同席を業務範囲に明記しておけば型は残ります。委託を検討する際は、この点を契約段階で確認してください。
Q6. 部署はどこに置くべきですか。
A. 経営企画配下、CFO配下、独立部門のいずれもあり得ます。判断軸は経営会議・取締役会に直接アクセスできるかどうかです。M&Aは意思決定のスピードが結果を左右するため、レポートラインが深いと機能しにくくなります。
まとめ
- コーポレートデベロップメントは、M&Aをイベントではなく組織能力として扱うための常設機能である
- 担うのは、戦略・テーゼ、ソーシング、評価・DD、交渉・実行、PMI・振り返りの5機能で、それぞれ異なるスキルを要する
- 機能が欠けると、兼務による停滞、属人化による知見の消失、統合段階での価値の毀損が生じる
- 立ち上げは、設計(0〜3ヶ月)、実行(3〜6ヶ月)、標準化(6〜12ヶ月)の順で進める
- 採用・外部委託・コンサルティングは併用が現実的で、いずれも社内に型が残る設計にしておく
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この記事の著者
大熊 一慶(おおくま いっけい)|WellBear株式会社 共同代表(Managing Partner)
2011年、株式会社モンスターラボ(現 株式会社モンスターラボホールディングス/東証グロース・5255)入社。海外事業子会社の代表取締役、日本、ヨーロッパ、アメリカ、東南アジアなどで10社超の国内・海外M&Aを遂行した同社の執行役員を兼務。2023年、M&Aサービスを提供するWellBearを共同創業。
出典
- レコフデータ「MARR Online」『2025年のM&A回顧(2025年1-12月の日本企業のM&A動向)』(2026年1月5日公開)https://www.marr.jp/marr/category/MAkaiko/entry/66036
- DIGGLE株式会社調べ『M&Aに対する企業の意識調査』(2026年1月6日発表)https://diggle.jp/news/pressrelease/20260106/
- 経済産業省『スタートアップM&Aガイダンス』(2026年5月、p.3)https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/houkokusyo/startup_ma_guidance.pdf (2026年7月30日利用)
- 内閣官房 第4回スタートアップ政策推進分科会 資料2『東証グロース市場の在り方、M&Aガイダンス』(経済産業省、2026年5月20日)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/startup/dai4/shiryou2.pdf (2026年7月30日利用)
- 経済産業省『海外M&Aを経営に活用する9つの行動』(2018年)
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