経営企画のAI活用事例|Sanofi・IBM・伊藤忠など日米の公開事例から学ぶ組み込み方
WellBear M&Aアドバイザリーチーム
クロスボーダーM&A専門のFA(フィナンシャル・アドバイザー)チーム

- 経営企画・戦略部門のAI活用は、議事録や資料作成の効率化を超えて、ポートフォリオ判断・投資業務・経営会議の論点整理といった中核業務に入り始めた。SanofiはAIを「すべてのガバナンス会議に参加」させ、伊藤忠商事は事業投資プロセスそのものをAIで支援している。
- 日本のプライム上場企業の生成AI導入率は95.6%に達した一方、「期待を大きく上回る効果」を出せている日本企業は9%と、米国の38%に大きく劣後する(PwC・6カ国比較)。差がつくのは導入の有無ではなく、コア業務への組み込みの深さである。
- 本記事では、米国・グローバルと日本の公開事例を横断し、経営企画がAIを「配って終わり」にしないための組み込み方を整理する。
経営企画のAI活用とは — 「導入」ではもう差がつかない
経営企画のAI活用とは、情報収集・分析・資料作成といった支援業務の効率化にとどまらず、中期計画・投資判断・ポートフォリオ管理・経営会議運営といった経営企画の中核業務に生成AIを組み込み、意思決定の質とスピードを高める取り組みである。
日本でも導入自体は完了しつつあります。デロイト トーマツ グループの調査(2025年8月発表、プライム上場企業など売上1,000億円以上の企業の管理職以上700名超が回答)では、生成AIの導入率は95.6%(前回87.6%)、全社展開の割合は47.0%と前回調査の26.4%からほぼ倍増しました。回答者の42.7%は意思決定スピードの向上を実感しています。
一方で、効果には国際的な差が開いています。PwCの6カ国比較調査(生成AIに関する実態調査2026春、2026年6月公表)では、生成AIで「期待を大きく上回る効果」を創出している企業は日本9%に対し米国38%。日本の導入率自体は87%と他国並みであり、差は導入ではなく使い込みの深さで生じています。以下の事例は、その「使い込み」が具体的に何を指すかを示しています。
米国・グローバル企業の事例
企業 | 取り組み | 公表されている効果・規模 |
|---|---|---|
Sanofi | 意思決定支援AIアプリ「plai」(Aily Labsと開発) | 10億超のデータポイントを集約し、R&Dポートフォリオの費用・治験タイムライン・成功確率を予測。開発品の進行を決めるすべてのガバナンス会議にplaiが参加(2026年2月公表) |
IBM | 自社を実験台にする「Client Zero」 | 2023〜2025年の累計で45億ドルの生産性効果。人事問い合わせの94%をAIが解決、調達で年約2.6万時間を削減(2026年1月公表) |
Johnson & Johnson | AIユースケースの選別投資 | 3年間で約900のユースケースを試行した後、「価値の約80%を生む10〜15%」への集中に転換(米WSJ報道・2025年4月) |
Moderna | 社内GPTの全社展開 | 導入2ヶ月で750の社内GPTを作成。1人あたり週平均120回の対話(OpenAI導入事例) |
Walmart | 社内アシスタント「My Assistant」 | 約60日で開発し、2023年に米国の本社系従業員5万人へ展開。2024年に11カ国へ拡大(同社公表) |
表は各社公表資料・報道を基に当社作成(出典は記事末尾)。
Sanofi — 経営会議に「AIが同席」する
製薬大手Sanofiは、Aily Labsと開発したAIアプリ「plai」を経営の意思決定に組み込んでいます。同社の公表によれば、plaiは社内の10億を超えるデータポイントを集約し、研究開発ポートフォリオの費用・治験の組み入れタイムライン・成功確率を予測します。特徴的なのは運用で、開発品の進行可否を決めるすべてのガバナンス会議にplaiが参加し、「もしこうしたら」のシナリオを提示します。同社は同時に「人が常に判断の輪の中にいる(human always in the loop)」原則も明記しています(Sanofi公式サイト、2026年2月)。
IBM — 自社を「Client Zero」にして効果を金額で語る
IBMは自社を最初の顧客(Client Zero)と位置づけ、人事・財務・調達など社内業務にAIを適用してきました。公式事例によれば、2023〜2025年の累計で45億ドルの生産性効果を確認し、社内AIアシスタント「AskHR」は一般的な人事問い合わせの94%を解決、調達業務では年約2.6万時間を削減しています。財務では仕訳処理のサイクルタイムを約90%短縮できるとの試算(導入後3ヶ月時点の予測値)も公表しています(IBM「IBM as Client Zero」2026年1月)。効果を「時間」と「金額」で対外的に語る姿勢は、全社AIを推進する経営企画にとって参考になる報告様式です。
J&J — 900件試して、勝ち筋の10〜15%に絞る
Johnson & Johnsonは約3年間で900近いAIユースケースを試行した後、方針を転換しました。米WSJの報道(2025年4月、PYMNTS等が引用)によれば、同社CIOは「AIユースケースの10〜15%が価値の80%をもたらす」として、営業コーチングやサプライチェーンリスク特定など効果が実証された領域への集中投資に切り替えています。「広く試す」段階から「選別して深く組み込む」段階への移行は、AI投資のROIを問われ始めた経営企画に共通する論点です。
Moderna・Walmart — 現場がAIを「作る」側に回る
Modernaは導入からわずか2ヶ月で750の社内GPT(用途別AIアシスタント)が作られ、利用者1人あたり週平均120回の対話が行われるまで日常化しました(OpenAI導入事例)。Walmartは社内アシスタント「My Assistant」を約60日で開発し、2023年に米国の本社系従業員5万人へ、2024年には11カ国へ展開しています(同社公表)。Colgate-Palmoliveも、社員自身がAIアシスタントを構築・テスト・展開できる社内基盤「AI Hub」を整備しています(PYMNTS、2025年12月)。共通するのは、AIを配布物ではなく、現場が自分の業務に合わせて作り替えられる道具として提供している点です。
日本企業の事例 — 投資業務・経営会議への組み込みが始まった
企業 | 取り組み | 公表されている効果・規模 |
|---|---|---|
伊藤忠商事 | 生成AI「I-Colleague」を事業投資プロセス(発掘→深掛調査→申請書チェック)に実装 | 利用者約26,000人(2025年9月時点)。年間削減時間は従来施策の37万時間から227万時間超(約1,263人分に相当)へ(2025年10月・IR資料) |
富士通 | 経営会議にAIを「同席」させ論点整理を支援 | 社内AIの月間アクティブユーザー約7万人、業務効率化は年間134万時間規模(2025年12月・同社広報) |
NEC | 議事録・資料作成の定番AI化 | 議事録作成が平均30分から約5分に短縮、資料作成時間は50%削減(2023年7月公表) |
GMOインターネットグループ | AI活用の四半期定点測定 | 生成AIの業務活用率97.8%、AIエージェント活用率71.4%。月間約35.2万時間を削減(2026年4月発表、有効回答5,353名) |
パナソニック コネクト | 全社員AI「ConnectAI」 | 2025年度に78.8万時間(総労働時間の3.4%)を削減。2030年に総労働時間の10%削減を目標(2026年7月発表) |
表は各社公表資料を基に当社作成(出典は記事末尾)。
伊藤忠商事 — 投資プロセスの3ステップをAIが支援する
経営企画・投資部門にとって最も示唆が大きいのが伊藤忠商事です。同社は投資家向け説明資料(2025年10月)で、生成AI基盤「I-Colleague」を事業投資プロセスに実装していることを示しました。①対象企業の発掘・情報収集、②社内情報と外部データベースを組み合わせたターゲットの深掛り調査、③投資申請書のチェック、という投資の実工程に沿ったAI支援です。グループでの利用者は約26,000人(2025年9月時点)、年間の業務削減時間は従来のデジタル施策による37万時間から227万時間超(約1,263人分に相当、約6倍)に拡大したとしています。さらに同社は、商取引やM&A・人事の領域で自律型AIエージェントの実装を進める計画も公表しています(Microsoft導入事例、2026年7月)。
富士通・NEC — 「会議と資料」を起点に経営プロセスへ
富士通は、経営会議にAIを同席させて論点整理を支援し、意思決定の先送りを防ぐ取り組みが報じられています(ITmediaビジネスオンライン、2025年11月)。全社では社内AIの月間アクティブユーザーが約7万人、業務効率化は年間134万時間規模に達したと同社広報が公表しています(2025年12月)。NECは早期の2023年時点で、社内生成AIにより議事録作成を平均30分から約5分へ、資料作成時間を50%削減したと公表しました。議事録・資料という入口から始めて、会議体の運営そのものに広げていく順番は、多くの経営企画にとって再現しやすい経路です。
GMO・パナソニック コネクト — 効果を「時間」で毎期公表する
GMOインターネットグループは、全パートナー(社員)のAI活用率と削減時間を四半期ごとに定点測定し公表しています。2026年4月発表では生成AIの業務活用率97.8%、AIエージェントの業務活用率71.4%、月間削減時間は約35.2万時間(1人あたり月約53.9時間)でした。パナソニック コネクトは2025年度に78.8万時間(総労働時間の3.4%)を削減し、2030年に10%削減という目標を置いています。効果を「削減時間」という共通単位で毎期測って公表する運用は、全社AI推進の担い手である経営企画・DX部門にとって実務モデルになります。
事例に共通する4つの型
- 効果を時間と金額で測る。伊藤忠(年227万時間超)、IBM(累計45億ドル)、GMO・パナソニック コネクト(四半期・年次の定点測定)に共通するのは、効果測定の単位を先に決めていることです。測れない施策は選別もできません。
- 会議・意思決定プロセスに組み込む。Sanofiのガバナンス会議へのAI参加、富士通の経営会議での論点整理のように、成果を出している企業はAIを個人の道具にとどめず、会議体と意思決定プロセスの側に埋め込んでいます。
- 広く試した後、勝ち筋に絞る。J&Jの「900件→価値の80%を生む10〜15%に集中」は、PoC乱立に悩む日本企業への処方箋です。試行の段階と選別の段階を意識的に分けることが、ROIの分岐点になります。
- 現場が作れるようにし、ルールで守る。Moderna・Walmart・Colgateのように現場がAIを作る体制は浸透を速めます。同時に、権限・データの扱い・確認プロセスといったガバナンスを先に設計することが前提です(この設計論は「M&A×生成AIの現在地」のセキュリティ章で整理しています)。
よくある質問
Q1. 経営企画では、まずどの業務からAIを使うべきですか。
A. 情報収集・要約、会議の議事録・論点整理、経営資料のドラフト作成が定石です。NECの「議事錂30分→5分」のように効果が測りやすく、機密管理の設計もしやすい領域です。効果と運用ルールを確立した後、投資検討や計画業務など判断に近い工程へ広げます。
Q2. 意思決定にAIを使うのは危険ではありませんか。
A. 事例企業はいずれも、AIを「決める主体」ではなく「判断材料を速く・厚くする道具」として使っています。SanofiはAIを全ガバナンス会議に参加させる一方で「人が常に判断の輪の中にいる」原則を明記しています。最終判断の責任を人に置くゲートを業務フローに組み込むことが前提です。
Q3. 導入したものの利用が定着しません。何が違うのですか。
A. 公開事例から読み取れる違いは3点です。業務プロセス(会議体・稟議・投資工程)の側に組み込んでいること、Modernaのように現場が自分用のAIを作れること、GMOのように利用率と効果を定点測定して部門差を可視化していることです。配布して研修をして終わり、という運用との差がここに表れます。
Q4. 効果はどのくらい見込めますか。
A. 公表値では、伊藤忠が年227万時間超(利用者約26,000人)、パナソニック コネクトが総労働時間の3.4%、IBMが3年累計45億ドルなどです。ただしいずれも各社の公表値(自己申告値)であり、業務構成によって大きく変わります。自社では対象業務を絞って実測し、単位(時間・金額)を決めて積み上げるのが現実的です。
Q5. 日本企業は米国に比べて遅れているのでしょうか。
A. 導入率では遅れていません(日本87%、PwC 2026年調査)。差が出ているのは効果で、「期待を大きく上回る効果」は日本9%対米国38%です。伊藤忠・富士通のようにコア業務へ組み込む日本企業も出てきており、遅れの正体は導入ではなく組み込みの深さと選別です。
Q6. M&A・投資業務にはどう広げればよいですか。
A. 伊藤忠の3ステップ(発掘→深掛り調査→申請書チェック)が参考になります。ソーシングや外部情報の調査など公開情報を扱う工程から始め、セキュリティ設計を固めたうえでDD・稟議支援へ広げる順番です。M&Aプロセス全体でのAI活用は「M&A×生成AIの現在地」で、体制づくりは「M&A組織のつくり方」で解説しています。
まとめ
- 経営企画のAI活用は、資料・議事録の効率化から、ポートフォリオ判断・投資プロセス・経営会議への組み込みへと段階が進んだ
- 日本の導入率は95.6%(プライム上場企業など)に達したが、「期待を大きく上回る効果」は日本9%対米国38%。差は導入ではなく組み込みの深さで生じている
- Sanofi(全ガバナンス会議にAI参加)、IBM(累計45億ドルを公表)、J&J(900件から10〜15%へ選別)、伊藤忠(投資3ステップのAI支援・年227万時間超)が示すのは、測定・組み込み・選別・現場化の4つの型である
- 経営企画の次の一手は、効果測定の単位を決めること、会議体と意思決定プロセスにAIを埋め込むこと、そして投資・M&A業務への展開である
次に読む
- M&A×生成AIの現在地|ソーシングからPMIまで、米国の最新調査と活用事例
- プログラマティックM&Aとは|米国シリアルアクワイアラーの組織と、日本企業への示唆
- M&A組織のつくり方|コーポレートデベロップメントに必要な5つの機能と12ヶ月の工程
この記事の著者
WellBear株式会社 FAチーム
出典
- Sanofiプレスリリース(2023年6月13日)https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2023/2023-06-13-12-00-00-2687072 / Sanofi「AI Across the R&D Value Chain: Portfolio Decision-Making」(2026年2月24日)https://www.sanofi.com/en/magazine/ai-in-healthcare/ai-across-the-research-development-value-chain-portfolio-decision-making (2026年8月21日利用)
- IBM「IBM as Client Zero」(2026年1月)https://www.ibm.com/case-studies/ibm-client-zero (2026年8月21日利用)
- PYMNTS「Johnson & Johnson: 15% of AI Use Cases Deliver 80% of Value」(2025年4月18日、米WSJ報道を引用)https://www.pymnts.com/news/artificial-intelligence/2025/johnson-15percent-ai-use-cases-deliver-80percent-value/ (2026年8月21日利用)
- OpenAI導入事例「Moderna」https://openai.com/index/moderna/ (2026年8月21日利用)
- Walmart「Walmart's expanding one-of-a-kind associate GenAI tool to 11 countries in 2024」(2024年1月9日)https://corporate.walmart.com/news/2024/01/09/walmarts-expanding-one-of-a-kind-associate-genai-tool-to-11-countries-in-2024 / CIO Dive(2023年8月30日)https://www.ciodive.com/news/Walmart-generative-AI-tool-My-Assistant/692385/ (2026年8月21日利用)
- PYMNTS「Inside Colgate's Enterprise-Wide AI Push」(2025年12月)https://www.pymnts.com/news/artificial-intelligence/2025/inside-colgates-enterprise-wide-ai-push/ (2026年8月21日利用)
- 伊藤忠商事 投資家向け説明資料「デジタル戦略 〜地に足のついたAIXへ〜」(2025年10月17日)https://www.itochu.co.jp/ja/files/ITC251017_2.pdf / Microsoft導入事例「伊藤忠商事」(2026年7月14日)https://www.microsoft.com/ja-jp/customers/story/26853-itochu-corporation-azure (2026年8月21日利用)
- ITmediaビジネスオンライン「AIを経営会議に“同席”させる 富士通が始めた、“意思決定を先送りさせない”方法とは?」(2025年11月10日)https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2511/10/news014.html (2026年8月21日利用)
- 富士通広報note「テクノロジーカンパニーが本気で挑む全社AI実践活動」(2025年12月19日)https://note.com/fujitsu_pr/n/n771ab05406cf (2026年8月21日利用)
- NECプレスリリース「NEC develops and provides generative AI for business use」(2023年7月6日)https://www.nec.com/en/press/202307/global_20230706_01.html (2026年8月21日利用)
- GMOインターネットグループ プレスリリース(2026年4月9日)https://group.gmo/news/article/9982/ (2026年8月21日利用)
- パナソニック コネクト プレスリリース(2026年7月29日)https://news.panasonic.com/jp/press/jn260729-1 (2026年8月21日利用)
- デロイト トーマツ グループ「プライム上場企業における生成AI活用調査」プレスリリース(2025年8月28日)https://www.deloitte.com/jp/ja/about/press-room/nr20250828.html (2026年8月21日利用)
- PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」(2026年6月10日公表)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2026.html (2026年8月21日利用)
本記事は各社・各機関の公開資料から確認できた記述に基づいて構成しています。記載の効果値・実績値には各社の公表値(自己申告値)を含みます。導入判断の際は必ず一次情報をご確認ください。英語資料からの記述は引用者による要約・訳です。会社名・製品名は各社の商標または登録商標です。
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