M&A×生成AIの現在地|ソーシングからPMIまで、米国の最新調査と活用事例
WellBear M&Aアドバイザリーチーム
クロスボーダーM&A専門のFA(フィナンシャル・アドバイザー)チーム

- M&A実務での生成AI利用は「試してみた」段階を過ぎた。2025年にM&AでAIツールを使った経営幹部は45%と前年から2倍超に増え(Bain)、米大手企業・PEファームの86%が生成AIをM&Aワークフローに組み込んだと回答している(Deloitte)。
- 効果も数字で報告され始めている。M&A関連コストは約20%低下し、利用者の40%はディールサイクルが30〜50%速くなったと回答(McKinsey)。一方で導入済み企業の最大の懸念はデータセキュリティ(67%)である。
- 本記事では、ソーシングからDD・PMIまでの工程別に米国の調査・公開事例を整理し、機密を扱うM&A部門がAIを安全に使うための設計原則をまとめる。
M&A×生成AIの現在地 — 主要調査の数字
M&Aにおける生成AI活用とは、買収候補の探索・スクリーニング、デューデリジェンス(DD)での文書読解、契約レビュー、バリュエーションの下準備、統合計画の立案といったM&Aの各工程に、大規模言語モデルを中心とするAIを組み込むことである。2024年頃までは実験段階の報告が中心でしたが、2025年以降、主要ファームの調査が揃って「実装段階への移行」を示しています。
調査 | 主要な数値 | 出典・時期 |
|---|---|---|
Bain(M&A幹部300名超) | 2025年にM&AでAIツールを利用した幹部は45%(前年比2倍超)。約3分の1は体系的に利用、またはプロセスを再設計中 | Global M&A Report 2026(2026年1月) |
Deloitte(米大手企業・PEの幹部1,000名) | 86%が生成AIをM&Aワークフローに統合済み(うち65%は直近1年で導入)。83%はM&Aチーム向けに100万ドル以上を投資 | 2025 M&A Generative AI Study(2025年10月) |
McKinsey | M&A関連コストは約20%低下、ディールサイクルは10〜30%短縮。利用者の40%は「30〜50%高速化した」と回答。ただし活用度が中〜高水準の回答者はまだ30% | 「Gen AI in M&A」(2026年1月)/「2026 M&A trends」(2026年2月) |
Accenture(ディールメーカー650名・24カ国) | プレディール(探索〜DD)への生成AI投資は46%(2024年は31%)。ポストディール(統合)は27%(同18%)にとどまる | The dawn of the agentic deal(2026年3月) |
表は各社公表資料を基に当社作成(各出典のURLは記事末尾)。なお満足度に関しては、早期利用者の85%が「期待通りか期待以上」と回答し、78%が手作業削減による生産性向上、54%がタイムラインの短縮を挙げたというBainの先行調査があります(2024年1月)。Accentureの先行調査(2025年3月)は、生成AIをディールライフサイクル全体に幅広く組み込んだ買い手は、買収後の価値を継続的に獲得できていると回答する割合が4倍高いとしています。
注目すべきは工程の偏りです。AI活用はソーシング・DDなどプレディールに集中し、統合(PMI)ではまだ3割弱にとどまります。統合実務のAI化はこれから伸びる領域であり、先に使い始めた買い手ほど差がつきやすい構図です。
工程別に見る活用の実際
工程 | AIが担い始めた作業 | 公表されている調査・事例 |
|---|---|---|
ソーシング | ロングリスト作成、候補のスコアリング、マッチ根拠の言語化 | 業務ソフトウェア企業が1日足らずで500社超を特定・スコアリング→15社に優先化→数ヶ月内に3件買収(McKinsey、2026年1月) |
DD・法務 | データルーム文書の読解、リスク条項の抽出、DD依頼リストとの突合 | 法律事務所の実績で当初15〜20%、非構造データルーム案件では最大75%の時間削減(Harvey、2026年1月) |
リサーチ・分析 | スクリーニング、開示資料・専門家インタビューの横断要約 | PEファームはスクリーニング〜DD〜リサーチで1案件あたり20〜30時間を削減(OpenAI導入事例・Hebbia)。AlphaSenseはS&P 100の90%が利用(2025年10月時点の同社公表) |
VDR(データルーム)運営 | 個人情報の自動マスキング、買い手Q&Aの管理、多言語翻訳 | 世界トップ100のM&A案件の40%超・年間16,000件超が利用するVDRがAI機能を標準搭載(Datasite公表) |
PMI(統合) | 統合ワークプラン・TSAドラフトの初稿作成、シナジー分析 | 統合ワークプランとTSAドラフトの作成時間が従来の20%未満になるとの予測(Bain、2025年2月)。シナジー特定を12ヶ月超→約2ヶ月に短縮した統合事例も(Bain、2026年1月) |
表は各社公表資料を基に当社作成。いずれの事例も、AIが担うのは「下ごしらえ」であり、候補の最終選定・条件判断・意思決定は人が行う分業が前提になっています。McKinseyは、活用が進んだ組織の共通点を「ツール導入」ではなく「プロセスの再設計」とセットで進めている点に見ています(2026年1月)。
ソーシングが最初の主戦場になる理由
工程の中で最も導入が速いのがソーシングです。理由は明快で、扱う情報の大半が公開情報・外部データベースであり、機密性の壁が低いためです。前述のMcKinseyの事例では、生成AIと4,000万社超の企業データベースを組み合わせ、投資テーゼに沿った候補抽出とスコアリングを自動化しています。人手で数週間かけていたロングリスト作成が数時間〜1日で回るようになると、検討できるテーゼの数自体が増え、パイプラインの質と量が変わります。
DDと法務レビューがそれに続きます。Harveyの法律事務所実績(時間削減15〜20%、非構造データルームで最大75%)や、Hebbiaを使うPEの1案件20〜30時間削減は、いずれも「読む仕事」の圧縮です。数百〜数千ページの契約・入札書類・開示資料から論点を抽出する作業は、生成AIの適性が最も高い業務のひとつです。
最大の論点はセキュリティ — 「漏れない設計」を先に決める
Deloitteの調査では、生成AIを導入済みの企業でも、活用拡大の最大の障壁として67%がデータセキュリティを挙げました(2025年10月、幹部1,000名調査)。案件の存在自体が秘密であるM&Aでは当然の懸念であり、先行企業の公開情報を見ると、対策は次の4点に集約できます(当社整理)。
- 閉域・専用環境で使う。公開チャットAIに案件情報を貼る運用を避け、自社管理の環境・業務システム内でAI処理を完結させる。
- 入力を学習に使わせない契約にする。法人向けAPIやエンタープライズ契約では、入力・出力をモデル学習に使わない条件が標準化しています。例えばAnthropicは商用APIについて「デフォルトで入力・出力をモデルの学習に使用しない」ことを利用規約・公式ヘルプで明示しています。M&A専用ツールでも、Harveyが顧客データを学習に使わない方針とISO/IEC 42001等の認証を公表し、DatasiteはVDRとして初めてISO/IEC 42001(AIマネジメントシステムの国際規格)認証を取得したとしています。
- ルールと権限を決めてから配る。誰が・どの情報を・どのツールに入れてよいかの社内規程と権限管理を先に整備する。日本では総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」(最新は第1.2版、2026年3月)が社内規程づくりの参照枠組みになります。
- 人の最終確認をプロセスに組み込む。AIの出力を確認なしに社外に出さない、意思決定に直結させないゲートを業務フロー側に埋め込む。
ツール選定の実務では、「入力データを学習に使わない」ことと「AI管理に関する第三者認証」の2点が契約書・公表資料で明文化されているかが確認の起点になります。なお、本記事の法規制・ガイドラインに関する記述は一般的な整理であり、法的助言ではありません。
当社の実践 — CrossBorder M&A Hub
当社(WellBear株式会社)も、この4原則を前提に、クロスボーダーM&Aの買い手候補探索を支援する自社開発プラットフォーム「CrossBorder M&A Hub」を運営しています。生成AI(Claude)と外部企業データベース・自社データベースを組み合わせて数百社規模の買い手候補リストを根拠つきで自動生成し、打診先の選定・メール内容の確認は必ず人(アドバイザー)が行う設計です。AI処理は自社システム内で完結させ、商用APIの学習不使用ポリシーの下でデータを自社管理しています。
日本企業への示唆 — 始め方の3ステップ
- 公開情報の工程から始める。ソーシング・市場調査・競合分析など、機密性の低い工程で効果と運用ルールを確立します。米国でも導入はプレディール偏重(46% vs 27%)であり、順番として自然です。
- セキュリティ設計を先に固める。閉域環境・学習不使用契約・社内規程・人の確認ゲートの4点を、活用拡大の前に整備します。「便利さ」より先に「漏れない設計」を決めた企業ほど、結果として全社展開が速いというのが先行事例の示唆です。
- 統合(PMI)を次の一手に据える。統合のAI活用はまだ3割弱で、先行者の差がつきやすい領域です。統合ワークプランやTSAドラフトの初稿作成は、生成AIの定番業務になるとBainは予測しています。PMIの標準手法そのものは「米国型PMIの標準手法|IMO・Day 1・100日プラン」で解説しています。
なお、AI以前の問題として、ソーシングやPMIを担う体制が社内にないケースでは、ツールを入れても回りません。M&A組織の設計は「M&A組織のつくり方|コーポレートデベロップメントに必要な5つの機能と12ヶ月の工程」を参照してください。
よくある質問
Q1. M&AのどのプロセスからAIを導入すべきですか。
A. 公開情報を扱うソーシング・市場分析からが定石です。機密性の壁が低く、効果(候補数・検討スピード)が測りやすいためです。DD文書の読解は効果が大きい一方、データルーム情報を扱うため、セキュリティ設計と学習不使用契約の確認を先に済ませる必要があります。
Q2. AIの利用でDDの品質は下がりませんか。
A. 使い方次第です。米国の調査・事例で報告されているのは、読解・抽出・突合といった下ごしらえの自動化であり、論点の評価と判断は人が行います。むしろ全文書を走査できるため「読み切れずに見落とす」リスクを下げる効果が報告されています。最終判断をAIに委ねない運用ゲートを業務フローに組み込むことが品質維持の要点です。
Q3. 情報漏洩が心配です。何を確認すればよいですか。
A. 最低限、①入力・出力をモデル学習に使わないことが契約・規約で明文化されているか、②データの保存場所と閉域構成、③ISO/IEC 42001等の第三者認証、④社内の利用規程と権限管理、の4点です。導入済み企業の最大の懸念もデータセキュリティ(67%、Deloitte 2025年10月)であり、ここを先に設計することが活用拡大の条件になっています。
Q4. 費用対効果はどの程度見込めますか。
A. 公表値では、M&A関連コスト約20%減・サイクル10〜30%短縮(McKinsey)、法務レビューで15〜75%の時間削減(Harvey導入先の法律事務所実績)、PEのスクリーニング〜DDで1案件20〜30時間削減(OpenAI導入事例)などが報告されています。いずれもベンダー・導入企業の公表値を含むため、自社では小さく試して実測することをおすすめします。
Q5. PMI(統合)でもAIは使えますか。
A. 使われ始めています。統合ワークプラン・TSAドラフトの初稿作成、両社データの横断分析によるシナジー特定(12ヶ月超→約2ヶ月に短縮した事例をBainが紹介)などです。ただし利用率はプレディールより低く(27%)、これから伸びる領域です。
まとめ
- M&AでのAI利用は2025年に45%と1年で2倍超に増え、86%の組織が生成AIをワークフローに組み込んだと回答している(Bain・Deloitte)
- 効果はコスト約20%減・サイクル10〜30%短縮、法務レビュー最大75%削減など数字で報告され始めた。AIが担うのは下ごしらえで、判断は人が行う分業が共通解
- 活用はソーシング・DDに偏り、PMIはまだ3割弱。統合実務のAI化は先行者の差がつきやすい
- 最大の障壁はデータセキュリティ(67%)。閉域環境・学習不使用契約・ルールと権限・人の最終確認の4点を、活用拡大の前に設計する
- 効果検証は「ツール導入」ではなく「プロセス再設計」とセットで。体制がない場合はM&A組織づくりが先行課題になる
次に読む
- 米国型PMIの標準手法|IMO・Day 1・100日プラン・シナジートラッキングの実務
- 経営企画のAI活用事例|Sanofi・IBM・伊藤忠など日米の公開事例から学ぶ組み込み方
- M&A組織のつくり方|コーポレートデベロップメントに必要な5つの機能と12ヶ月の工程
この記事の著者
WellBear株式会社 FAチーム
出典
- Bain & Company「M&A Capability for a New Era: Five Ways AI Is Creating More Value in M&A Right Now」(Global M&A Report 2026、2026年1月)https://www.bain.com/insights/capability-for-a-new-era-m-and-a-report-2026/ (2026年8月21日利用)
- Bain & Companyプレスリリース(2026年1月27日)https://www.bain.com/about/media-center/press-releases/2026/global-ma-poised-to-sustain-momentum-in-2026-after-great-rebound-finds-bain--company/ (2026年8月21日利用)
- Bain & Company「Generative AI in M&A: Where Hope Meets Hype」(Global M&A Report 2024、2024年1月)https://www.bain.com/insights/generative-ai-m-and-a-report-2024/ (2026年8月21日利用)
- Bain & Companyプレスリリース「M&A market poised for a comeback in 2025 as headwinds ease」(2025年2月4日)https://www.bain.com/about/media-center/press-releases/20252/ma-market-poised-for-a-comeback-in-2025-as-headwinds-ease-finds-bain--company/ (2026年8月21日利用)
- Deloitte「2025 M&A Generative AI Study」プレスリリース(2025年10月9日)https://www.deloitte.com/us/en/about/press-room/deloitte-survey-genai-in-mna.html / 調査ページ https://www.deloitte.com/us/en/what-we-do/capabilities/mergers-acquisitions-restructuring/articles/m-and-a-generative-ai-study.html (2026年8月21日利用)
- McKinsey「Gen AI in M&A: From theory to practice to high performance」(2026年1月14日)https://www.mckinsey.com/capabilities/m-and-a/our-insights/gen-ai-in-m-and-a-from-theory-to-practice-to-high-performance (2026年8月21日利用)
- McKinsey「2026 M&A trends: Navigating a rapidly rebounding market」(2026年2月)https://www.mckinsey.com/capabilities/m-and-a/our-insights/top-m-and-a-trends (2026年8月21日利用)
- Accenture「The dawn of the agentic deal」(2026年3月)https://www.accenture.com/us-en/insights/strategy/agentic-ai-reshaping-mergers-and-acquisitions (2026年8月21日利用)
- Accenture「Unlocking Alpha in Deals」(2025年3月)https://www.accenture.com/gb-en/insights/strategy/unlocking-alpha-deals (2026年8月21日利用)
- Harvey「Harvey In Practice: How M&A Teams Use Harvey」(2026年1月)https://www.harvey.ai/blog/harvey-in-practice-how-m-and-a-teams-use-harvey / Securityページ https://www.harvey.ai/security (2026年8月21日利用)
- Datasite「AI at Datasite」https://www.datasite.com/en/resources/ai-at-datasite (2026年8月21日利用)
- AlphaSenseプレスリリース「AlphaSense Surpasses $500M in ARR」(2025年10月7日)https://www.alpha-sense.com/press/alphasense-surpasses-500m-in-arr/ (2026年8月21日利用)
- OpenAI導入事例「Hebbia」https://openai.com/index/hebbia/ (2026年8月21日利用)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20260331_1.pdf (2026年8月21日利用)
- Anthropic「Commercial Terms of Service」(2025年6月17日発効)https://www.anthropic.com/legal/commercial-terms / ヘルプセンター「Is my data used for model training?」https://support.anthropic.com/en/articles/7996868-is-my-data-used-for-model-training (2026年8月21日利用)
- WellBear「CrossBorder M&A Hub」公式サイト https://crossborderma.com
本記事は各社・各機関の公開資料から確認できた記述に基づいて構成しています。記載の効果値・実績値にはベンダー・導入企業の公表値(自己申告値)を含みます。導入判断の際は必ず一次情報をご確認ください。法規制・ガイドラインに関する記述は一般的な整理であり、法的助言ではありません。CrossBorder M&A Hubは当社(WellBear株式会社)が開発・運営するサービスです。会社名・製品名は各社の商標または登録商標です。
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